今回は、ゴルフ場では厄介な害虫扱いをされますが、全国的に見れば非常に貴重なコガネムシであるオオサカスジコガネのお話です。
環境省のレッドデータブック(2019現在)では、福岡県で絶滅危惧Ⅱ類に和歌山県で準絶滅危惧種に指定され、昆虫マニアの方々には憧れの昆虫ともいえます(笑)。
ついでに言うと害虫化してないですが、一部ゴルフ場で問題となっているムネアカセンチコガネはもっと貴重で、大阪、熊本県で絶滅危惧Ⅱ類に長野、神奈川、千葉、和歌山、香川、大分県で準絶滅危惧種に指定されています。ムネアカセンチコガネについては、機会があれば別の号で紹介します。
このムシの名前の由来は、大阪の淀川下流の河川敷の草地帯で最初に見つかったため「オオサカスジコガネ」と付けられたと聞いております(すごくベタな付け方ですね)。発生記録としては、関西以西のエリアで広く分布しているのですが、報告事例が極端に少なく生態が不明な部分が多いといわれていました。
現在は、ある程度生態も分かってきていて、湿地帯などの土壌水分が多い場所を好み、開発による河川工事の増加やため池の埋め立て等により、生息エリアが少なくなってきたのではと考えられております。また完全に夜行性の昆虫のため、人の目に触れることがほとんどなかったことも原因の一つです(昆虫マニアは別ですが...)。
そういった貴重な昆虫ですが、いるところにはいるのです!!
皆さんのご想像とおりですが、条件の整ったゴルフ場ではとんでもなく大発生しています。単一草種のゴルフ場の恐ろしさを感じてしまいますね。絶滅危惧種でさえ繁殖地と化してしまうのです...。
メスに群がりダンゴ状態の様子
交尾中のオオサカスジコガネ
筆者が調査でお世話になったゴルフ場では、2種類のコガネムシが大発生しておりました。
チビサクラコガネとオオサカスジコガネですが、不思議ときれいに生息場所が棲み分けされていました。
夜間調査を行うとホールの中で比較的高い位置にあるティイングエリアにはチビサクラコガネしかいなくて、フェアウェイの真ん中辺りで低い位置にいるのはすべてオオサカスジコガネでした。静岡大学名誉教授の廿日出先生が、以前、コース内の土壌水分を調べたところ、ティイングエリアに比べてフェアウェイの土壌水分はかなり高い数値だったと報告されておられました。
また、大きな池を囲むように各ホールがレイアウトされており、その周辺のホールで特にオオサカスジコガネが大発生していました。まさに河川やため池で自然発生していた大阪の淀川と条件が同じですね。
現在は、成虫の発生時期も把握でき効果の高い殺虫剤も開発されておりますが、当時はライトトラップを駆使して発生消長を調べたり、本種を防除するのに大変なご苦労があったと記憶しております。
<オオサカスジコガネの発生消長>
ちなみに現在は、オオサカスジコガネ用のフェロモントラップが市販されております。そんなにゴルフ場で分布が広がっているのかと筆者は疑ってしまいますが、興味のあるゴルフ場関係者の方は是非トラップを設置しては如何でしょうか?発生ピークはたぶん6月中かと思いますよ。
<参考文献>
「芝草病害虫・雑草 防除の手引」/社団法人日本植物防疫協会