今回の雑草コラムでは、キク科ムカシヨモギ属のハルジオンとヒメジョオンについてご紹介します。これらの植物の呼称はさまざまで、ハルジオンはハルジョオン、ヒメジョオンはヒメシオン・ヒメジオンなどと呼ばれる場合があります。由来も諸説存在しますが、このコラムでは、ハルジオンとヒメジョオンを和名として扱います。
なお、一部の写真の明度等を修正しております。予めご了承ください。
全体を見くらべてみると、なんだか同じような植物に見えますね。姿だけでなく、花を咲かせる季節も、ハルジオンが5~7月、ヒメジョオンが6~10月と一部重なっているため、まるで同じ個体が長い期間咲き続けるように感じられます。「毎年春に近所でこの植物を見かけるなあ」とお考えの方は、実は違う植物をご覧になっているかもしれません。
名前も見た目もまるでそっくりな植物たちですが、ハルジオンとヒメジョオンの間には、ルーペや顕微鏡をお持ちでなくとも、見分けられるポイントが複数あります。少し足を止めて観察してみましょう。
①葉の付き方
まず、葉と茎が接する部分が異なります。ハルジオンの葉は基部にかけて広がり、「茎を抱く」ようについています。一方でヒメジョオンの葉の基部はすっきりと細く窄まり、「茎についている」という印象を受けます。
②根元の葉の有無(花期)
次に、花が咲く時期の根元の様子が異なります。ハルジオンは、花期でも根生(こんせい)葉(よう)が枯れず、地表付近でぺたりと葉を広げています。これに対してヒメジョオンは、花期には根生葉が枯れるため、根元はすっきりとした印象があります。茶色く枯れた根生葉がついているか、あるいは落ちてしまって見つけることができないでしょう。
※根生(こんせい)葉(よう)……地表付近の茎から出るため、まるで根から出ているように見える葉のこと
③つぼみの向き
少し難しい見分け方ですが、つぼみの垂れ方が異なります。ハルジオンのつぼみは、ほとんどがうな垂れるように下を向いています。ヒメジョオンのつぼみも全く垂れないわけではありませんが、ハルジオンと比較すると、上向きについているものも多く、垂れ方もやや小さい傾向にあります。
ここまで一部の見分け方を紹介してまいりましたが、これらは個体差や環境条件、成長段階によって観察しづらい場合もあるため、識別に自信が持てないかもしれません。しかし、最もシンプルでわかりやすい見分け方があります。それは、茎の断面です。
④茎の断面
ハルジオンの茎の中は空洞で、切断すると緑のストローのように見えます。一方ヒメジョオンの茎には、スポンジ状の白い組織があり、中身が詰まっています。
この違いから、『春に浮かれたような軽い茎』を伸ばす方が『ハル』ジオン、と覚える方もいらっしゃるようです。一部を破壊する必要がありますが、この方法が最もわかりやすいので、ぜひ試してみてください。
さて、ここまでご紹介してきたハルジオンとヒメジョオンですが、いずれも北アメリカ原産の外来種です。過酷な環境条件下においても繁殖能力を発揮し、分布を拡大する植物たちとして知られています。特にヒメジョオンは、平成27年度(2005年)に環境省が策定した「生態系被害防止外来種リスト」(正式名称:「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」)の「その他の総合対策外来種」に指定されている種です。
どちらの植物も春から初夏、夏にかけて美しい姿を見せてくれる一方で、一度管理に失敗してしまえば、容易に自宅の庭先を飛び出し、周辺に大きな被害をもたらす可能性があります。トラブルを避けるためにも、安易な栽培や導入を行わないことがベストといえます。お花を摘み取って室内で鑑賞する程度にとどめ、楽しんだ後は種を拡げてしまわないよう、可燃ごみとして処分しましょう。
参考:
・「山渓ハンディ図鑑 野に咲く花 増補改訂新版」山と渓谷社
林弥栄 改訂版監修 門田裕一
・「日本の外来種対策 生態系被害防止外来種リスト」環境省自然環境局
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist.html
・「クサレス 雑草ハンドブック」クサレスゴルフ場部会
制作 全国農村教育協会